コラム「産官学の前に・地財の掘り起こし・コア技術の棚卸」

自己紹介
私は昨年大学を退職し関西大学の産学官のコーディネーターに就任いたしました。
よろしくお願いいたします。
私は30年以上、東大阪を中心に3日に1社、各地の中小企業を訪問し、全国至る所に出没することから、経営者から「まいど教授」「宅急便教授」などと”親しみ”を込めて呼ばれます。 これからも現場の実情を踏まえた数多くの中小企業振興策や地域力再生を提言し、中小企業の活性化に尽力してまいります。


中小企業の現状

 東大阪には、優秀な技術を持っている中小企業がたくさんあります。しかし、優秀な技術を持っていても受注に結びつきません。そこで、東大阪で進めているのは、中小企業の連携です。中小企業の技術を生かして新しい製品をつくる、新しい取り組みをする。
 私も、中小企業を集めて連携に取り組んできました。しかし、新しい製品が出来て成功をおさめた瞬間から失敗が始まります。誰が販路を取るのか、誰が製品を納めるのかと分裂が始まります。このように、継続性に欠ける現実があります。また、国からお金をもらうという支援はいいのですが、支援が途切れた段階で計画が挫折することもあります。
 私は、産官学の連携の前にやることがあると、中小企業の経営者に訴えています。それは、公的な研究所をまず利用することです。大阪であれば、地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所、地方独立行政法人大阪市立工業研究所などを利用することができます。利用料も安く、委託研究も廉価で利用できますし、そこにはそれぞれの分野で精通した先生方もたくさんいらっしゃいます。その先生方に自社が抱えている研究・技術を理解していただき、その先生方の出身大学を紹介してもらうと産官学の連携も進み、成功事例も多く産み出せます。

「地財」活用が地域の再生のカギ

 私は、「地財」ということを呼びかけています。地域には、その地域に眠っている財産があります。企業に当てはめれば、それは、企業が長年にわたり蓄積してきた技術・知識・人材・ネットワークなどです。企業・地域再生の基本は、この「地財」を掘り起こすことなのです。

コア技術の棚卸から

 もう一つの例は、東大阪の若手経営者の取り組みです。尼崎にある東亜バルブエンジニアリング株式会社の関連会社14社でつくる八千代会の取り組みです。その会は若手の会で、マナーを学ぼうということから生まれ、そこに私は講師として招かれました。そのとき景気も悪かったので、この会でなにかできないかという声が上がり、そこでまず私は各社と各々の関連会社5~10社の持っている要素技術を書き出してもらいました。それを見ると、金属加工のすべての技術があることがわかりました。その技術を八千代会というブランドで破砕機のメーカーに売り込みに行った結果、仕事を受注して新しい販路を広げることができたのです。

 何ができるのか、どんな「こと」ができるのかを胸襟を開いて話し合い、仕組みを作っていけば企業連携を実現していくことができるのです。

 日本には三百数十の地場産業があり、要素技術が無数にあふれています。「もの」から「こと」への転換と「差」「違」を活かしながら、胸襟を開いて連携できる仕組みを作り、公的研究機関から大学を巻き込んで、小企業の再生を果たすことができると思います。